そこは王都の大劇場
夜ごと描かれる至高の舞台
歌声に乗せて奏でられる物語
表現者は誰もが目指すその場所を、その確固たる聖域を
神に選ばれた若きヒロイン二人[Double Cast]
背が小さくて地味
けれど、歌いだすと表情が一変する少女
華やかで嬌艶な舞台に立つために生まれてきたような もう一人の少女
同じ場所を目指しお互いを高め合ってきた親友
二人は信頼しあっていた
けれど周囲は囁き合う
「真にヒロインに相応しいのは?」嫌でも耳に飛び込んでくる雑音
私なんて、と自虐的なフィー
どうしても自信が持てずにいて それを聞いて怒り出すリィサ
けれどもどこか悲しそうで珍しくケンカ別れのように
二人離れ家路についた
「少女は翌日、そのショックの影響からか熱を出して寝込んでしまう。
幸いなことに、そういう時のダブルキャスト。
予定とは違うものの、その日はリィサが舞台に上がることになった。
舞台のクライマックス。
ヒロインの見せ場である独唱
老朽化した照明が運悪く、その頭上に落下して。
静かに聞き入っていた観客は、眼前に降り注ぐ惨劇に悲鳴を上げていた。」
裸足のままで熱にふらつきながらも
親友の元へと走り出す少女
いつもは優しい仲間達 誰も目を合わせてくれない
膨張する不安 抑えきれない恐怖
けれど意を決してたどり着いた病室
そこにあったのは傷一つないような綺麗な横顔
「ひどいわ みんなで私を驚かせようとして。
本当にびっくりしたわ......。大したことはなかったのね!」
「安心した反動ではしゃぐ少女に、医師である老婆は言いづらそうに語る。
目立った傷は見えないけれど、頭部にあたったせいで意識が戻らないという。
ただ運が悪かったと。医学では同氏余もない。
魔女の力でも借りればあるいは...と非現実的な慰めをかけさえして。
少女は親友に覆いかぶさり、狼狽して泣き叫んでいた」
美しい《声》が《音》が今は悲しくかすれて
私のせいで...苦悩して塞ぎ込んだ---
泣いても泣いても朝は訪れる
舞台に上がろうとするフィー
けれど体の震えは止まらず何度やっても どうしても歌を歌うことができない......
仲間達は責めもせず少女を庇い 誰もが雇い主へと嘆願してくれた
演目の変更を、穴は我らが埋める、と
理解ある貴族は慈悲深くも首を縦に振った
それだけではない
片翼を失くし傷心のヒロインにしばしの休息を
彼女はその日から演者ではなく、皆を影から支える仕事に回った
「1日たりとも見舞いに訪れない日はなかった。
けれど、その顔を見るたびに少しずつ。
ほんの少しずつ、親友がやつれていくのを感じていて。
あるいは、少女自身も同じように生気を失っているのかもしれない。
数年の月日が流れて、すっかり舞台上から離れ、小間使いとして日々を過ごす少女。
ある夜、休憩をとぼんやり椅子に腰かけていると、舞台から突然 歌声が聞こえてきた。
舞台上には、あの頃のままの親友の姿。
彼女は美しく歌いながら少女を舞台に引っ張り上げる。
その続きを歌うように無言の視線で促されるけれど、やはり歌声はでなかった。」
「ねえ、歌ってよ。私の好きな、あなたの声色で」
邪気のない笑顔 何も変わらず誘われるように唇を動かす
あの頃と同じように歌えている 声が出る
心が覚えている 体が歓喜している
コーラスを津吹ゆくリィサ
ようやく思い出した
彼女が思い出させてくれた
[笑って? ほらね、やっと気づいた?]
私は[あなたは]歌うことが好きだ!
いつだって 横に立って時に争いながらも
良い沿いあって歌ってきたダブルキャスト
重なる声
今、繋がる感情
二人に距離なんてなかったね
誰よりお互い認め合っていたから
キミの歌を[あなたの声を]
「演目の一番の見せ場である独唱に差し掛かる
親友は口を閉ざし、真剣な顔で少女を促す。
戸惑いながらも滑らかに歌い上げる少女」
「なんで忘れていたんだろう。
歌うことってこんなにも素晴らしいことだった...!」
「この舞台のヒロインはやっぱりあなたね」
「何を言ってるの? ダブルキャスト。二人がヒロイン。でしょう?」
「ありがとう。でも、私はもういかなきゃ--」
「あなたに出会えてよかった。歌い続けて、ずっと---」
その言葉を残してリィサは姿を消した
こんらんしながら躓きながらも彼女が眠っていたはずのベッドへと駆ける
けれど、たどり着いたその時には 既に親友は息を引き取っていて......
いつだって横に立って いつまでも競い合って
ずっと二人で歌っていける そう思ってた......
「空に響くように フィー どうか歌い続けて---」
「彼女が心臓の鼓動を止めたのは、ちょうど最後に言葉を交わしたはずの瞬間で。
親友は、死の間際まで少女のことを想っていた
責任という重い十字架を背負い歌えなくなった少女を」
「歌い続けてずっと......」
「その親友の笑顔を胸に、少女は再び舞台に立つ。
比類なき歌声は、遠い国まで。そして、彼女がいるはずの空の果てまで響き渡っていた......」
夜ごと描かれる至高の舞台
歌声に乗せて奏でられる物語
表現者は誰もが目指すその場所を、その確固たる聖域を
神に選ばれた若きヒロイン二人[Double Cast]
背が小さくて地味
けれど、歌いだすと表情が一変する少女
華やかで嬌艶な舞台に立つために生まれてきたような もう一人の少女
同じ場所を目指しお互いを高め合ってきた親友
二人は信頼しあっていた
けれど周囲は囁き合う
「真にヒロインに相応しいのは?」嫌でも耳に飛び込んでくる雑音
私なんて、と自虐的なフィー
どうしても自信が持てずにいて それを聞いて怒り出すリィサ
けれどもどこか悲しそうで珍しくケンカ別れのように
二人離れ家路についた
「少女は翌日、そのショックの影響からか熱を出して寝込んでしまう。
幸いなことに、そういう時のダブルキャスト。
予定とは違うものの、その日はリィサが舞台に上がることになった。
舞台のクライマックス。
ヒロインの見せ場である独唱
老朽化した照明が運悪く、その頭上に落下して。
静かに聞き入っていた観客は、眼前に降り注ぐ惨劇に悲鳴を上げていた。」
裸足のままで熱にふらつきながらも
親友の元へと走り出す少女
いつもは優しい仲間達 誰も目を合わせてくれない
膨張する不安 抑えきれない恐怖
けれど意を決してたどり着いた病室
そこにあったのは傷一つないような綺麗な横顔
「ひどいわ みんなで私を驚かせようとして。
本当にびっくりしたわ......。大したことはなかったのね!」
「安心した反動ではしゃぐ少女に、医師である老婆は言いづらそうに語る。
目立った傷は見えないけれど、頭部にあたったせいで意識が戻らないという。
ただ運が悪かったと。医学では同氏余もない。
魔女の力でも借りればあるいは...と非現実的な慰めをかけさえして。
少女は親友に覆いかぶさり、狼狽して泣き叫んでいた」
美しい《声》が《音》が今は悲しくかすれて
私のせいで...苦悩して塞ぎ込んだ---
泣いても泣いても朝は訪れる
舞台に上がろうとするフィー
けれど体の震えは止まらず何度やっても どうしても歌を歌うことができない......
仲間達は責めもせず少女を庇い 誰もが雇い主へと嘆願してくれた
演目の変更を、穴は我らが埋める、と
理解ある貴族は慈悲深くも首を縦に振った
それだけではない
片翼を失くし傷心のヒロインにしばしの休息を
彼女はその日から演者ではなく、皆を影から支える仕事に回った
「1日たりとも見舞いに訪れない日はなかった。
けれど、その顔を見るたびに少しずつ。
ほんの少しずつ、親友がやつれていくのを感じていて。
あるいは、少女自身も同じように生気を失っているのかもしれない。
数年の月日が流れて、すっかり舞台上から離れ、小間使いとして日々を過ごす少女。
ある夜、休憩をとぼんやり椅子に腰かけていると、舞台から突然 歌声が聞こえてきた。
舞台上には、あの頃のままの親友の姿。
彼女は美しく歌いながら少女を舞台に引っ張り上げる。
その続きを歌うように無言の視線で促されるけれど、やはり歌声はでなかった。」
「ねえ、歌ってよ。私の好きな、あなたの声色で」
邪気のない笑顔 何も変わらず誘われるように唇を動かす
あの頃と同じように歌えている 声が出る
心が覚えている 体が歓喜している
コーラスを津吹ゆくリィサ
ようやく思い出した
彼女が思い出させてくれた
[笑って? ほらね、やっと気づいた?]
私は[あなたは]歌うことが好きだ!
いつだって 横に立って時に争いながらも
良い沿いあって歌ってきたダブルキャスト
重なる声
今、繋がる感情
二人に距離なんてなかったね
誰よりお互い認め合っていたから
キミの歌を[あなたの声を]
「演目の一番の見せ場である独唱に差し掛かる
親友は口を閉ざし、真剣な顔で少女を促す。
戸惑いながらも滑らかに歌い上げる少女」
「なんで忘れていたんだろう。
歌うことってこんなにも素晴らしいことだった...!」
「この舞台のヒロインはやっぱりあなたね」
「何を言ってるの? ダブルキャスト。二人がヒロイン。でしょう?」
「ありがとう。でも、私はもういかなきゃ--」
「あなたに出会えてよかった。歌い続けて、ずっと---」
その言葉を残してリィサは姿を消した
こんらんしながら躓きながらも彼女が眠っていたはずのベッドへと駆ける
けれど、たどり着いたその時には 既に親友は息を引き取っていて......
いつだって横に立って いつまでも競い合って
ずっと二人で歌っていける そう思ってた......
「空に響くように フィー どうか歌い続けて---」
「彼女が心臓の鼓動を止めたのは、ちょうど最後に言葉を交わしたはずの瞬間で。
親友は、死の間際まで少女のことを想っていた
責任という重い十字架を背負い歌えなくなった少女を」
「歌い続けてずっと......」
「その親友の笑顔を胸に、少女は再び舞台に立つ。
比類なき歌声は、遠い国まで。そして、彼女がいるはずの空の果てまで響き渡っていた......」